●ドクター脳活が意味するもの・・
人間の大脳は、脳の活動する場所によって果たす役割が違います。
「おでこ」の後ろにある「前頭前野」といわれる部分が他の脳を制御している、いわゆる脳の司令塔ともいうべき脳の中枢であるということが分かってきました。私たちの思考や判断、意欲、注意力、集中力、行動・感情の制御、コミュニケーション、記憶の整理なども「前頭前野」の仕事です。物忘れや、判断力、意欲の低下は、加齢によって特にこの部分の働きが鈍ってしまっていることが原因であるといわれています。
そこで、この大切な「前頭前野」を効果的に活性化させることを目的にしたものが「ドクター脳活」の脳活性プログラムです。
例えば、学習療法プログラムの一つである「カンタン計算問題」では、簡単な足し算・引き算・掛け算・割り算の計算式の羅列したものを上から順に解いていきます。一枚のシートに50問あり、10分で終了します。単純な作業の繰り返しと継続が、集中力を高めて脳を刺激していきます。さらに、その場で採点するので、出来具合を自分で確認出来ますので、達成感につながり次回への意欲を駆り立てます。
学習療法プログラムの中に、高齢になるにつれてなかなか使わなくなってしまう想像やヒラメキをつかさどる「右脳」を鍛えるトレーニングも取り入れています。例えば、塗り絵や図形を使ったパズルなどがそれに当たります。完成図を想像しながら構成を組み立てていく過程が右脳を鍛えます。
私たちは毎日の生活の中で、脳の一部だけを使い、残る多くの部分を使わずに過ごしています。(テレビを見ているだけではわずか数パーセントしか脳は活動していません)筋力と同様に脳も日頃使わないでいると、その部分から衰え始めます。このことは2004年10月の新潟中越地震の避難生活でも問題になりました。ボランティアによる手厚い手助けがかえって高齢者の活動低下と廃用症候群を招き、筋力低下や寝たきり、認知症の高齢者の増悪を加速させてしまいました。
私たちの実施している「ドクター脳活」では、専門のアドバイザーが利用者の状態に合わせたトレーニングを科学的、計画的に実施していきます。
次に当院で実施している回想療法が脳に与える効果について説明します。
一般に言われる痴呆症の問題行動(徘徊やとんでもないところでの排便行為)が実は問題行動でも何でもないということを知っておいてください。
どういうことかというと、脳の細胞が壊れていく際に最近覚えた事柄からポロポロと壊れて行きます。痴呆症の方、本人は古い記憶の中で、整合した行動をとっているのであり、問題行動と見えるのは、見ている側が現在の環境を前提に考えてしまうからです。痴呆症の方から見ると「問題行動」とされる行動にはちゃんとした整合した意味があるのです。
例えば、子供時代には薄暗い庭の片隅に、くみ取り式の便所があって、その記憶・認知が脳の深いところに刻印されています。その後、時が経ち、家を新築したり引っ越したり、息子の家に移り住んだりと環境も変わり、きれいな水洗便所へと変化します。この「きれいな水洗便所」は認知記憶ではずっと浅い層に溜まっているわけです。アルツハイマー症では、こういった浅い層の記憶が喪失されていきますので、「きれいな水洗便所」は本人にとって便所とは認識できなくなってしまうのです。それゆえ、便意を催した際には、子供のときの記憶「便所」を探し当てて排便に及ぶわけです。暗い部屋の片隅や廊下の端などが選ばれる理由はそこにあります。排便行為に及ぶその場所に容器を置いてやると、そこに排便をしてくれるケースが多々あります。
脳はいく層にも重なった記憶の積み重ねの構造だと理解してください。回想療法は、より深い層の記憶を揺さぶってやり、その神経領域の「活力」によって、その層の上にある記憶を活性化させて、さらには脳全体の活性化を図ります。活性度が上がることは、すなわち覚醒度も上がることを意味し、ボーっとした状態からシャキっとした状態に改善していくことにつながります。それが回想療法の醍醐味とだいえます。