高齢者認知症の病棟では、歌や体操ゲームなどを中心としたレクリエーションを行っています。
いろいろな作業療法士が交代して行っているところもあるので、レクリエーションの内容もその時その時によってまちまちですが、レクの開始時に必ず行うようにしている事があります。
それは、日付けの確認と出席です。
日付けの確認というのは、今日が何年何日何曜日なのかという事を、ホワイトボードに大きく明示し、それを参加者全員で読み上げるといったものです。
今いる場所や時間などの認識を見当識といいますが、認知症になると徐々にこの見当識という能力が障害されていくと考えられています。
つまり、「今日がいつで、ここがどこなのか」が徐々にわからなくなるという事です。
参加者の中には、見当識に障害がある方もいらっしゃいます。
参加者の方々に、今現在の適切な日時を、情報として正しくお伝えする。
そしてそこでの参加者と職員との間に生まれる人間的な交流を楽しむといった行為は、リアリティーオリエンテーションと呼ばれ、認知症高齢者の心理・社会的アプローチとして、普及されているものです。
私たちはその一環として日付けの確認をおこなっています。
それから、出席と言うのは、レクの開始時に皆様のお名前をフルネームでお呼びして、一人ずつ挨拶するといったものです。
人数の多い病棟では50人~60人ほどいますので、全員分お呼びすると、時間がかかってしまうことも多いですが、出席はとても大切なプログラムの一環であると考えているので欠かすことはできません。
これは、お名前をお呼びすることで、参加している方ひとりひとりに、「今からレクが始まるんだ、そしてそこに自分は参加しているんだ。」という意識をもってもらいたい。
また、人数の多い大集団であっても、我々スタッフは「レクに参加してありがとうございます。今日もよろしくお願いします。」という気持ちを、一人一人にお名前をお呼びすることで伝えたいという思いが込められています。
ところで、自分の名前と言うものは、自分のアイデンティティ(自己同一性:自分というものの独自性についての自覚)と深く結びついていると考えられています。
つまり名前を呼ばれて「はーい」と返事できると言うことは、まだ自分自身のアイデンティティが保たれている、自分が何者だかわかっていると考えることができます。
ところが、認知症が進行すると、「自分が自分でなくなる恐怖」や「自分が壊れていくような感覚」を本人達は感じるのだと、患者さんの手記などで読んだことがあります。
お名前を一人一人お呼びすることで、「あなたはあなたでしかない、○○さんはいつまでも○○さんのままでいて欲しい」と言うようなメッセージが少しでも伝わればいいなと思いながらいつも、お名前をお呼びさせてもらっています。
参考,引用文献
大田仁史,三好春樹,新しい介護,講談社,2006
野村豊子:回想法とライフレビュー,中央法規,1998
室伏君士:痴呆老人への対応と介護,金剛出版,1998
小澤勲:認知症とは何か,岩波新書,2006