認知症。
年々増え続けている病の一つで、日本でも深刻な問題として取り上げられる事も日々多くなっている。
その中でも代表的なのがアルツハイマー型認知症。
介護保険の認定結果は要介護3の男性で病名はアルツハイマー型認知症。
今から10年程前の話しになります。
認知症になる前は工場で機械を扱った仕事をしていて、その時の事故で両手合わせて指を3本失くしてしまったそうです。
歩いたりする事は問題なく、ご飯もトイレも1人で出来る(たまに失敗はあるが)
とても温和な方で、デイケアに来るといつもソファに腰をかけ、話しかけると笑顔で「そぅだぁねぇ!」といつもの山形弁で答えてくれる。
女性の職員に話しかけられると毎回照れた顔を見せる彼。
自発的に何かをする事はなく、職員に色々と勧められても「ダメだぁよぉー、できなぁいなぁ」と首を横に振る毎日。
そんな彼だが職員がいつものように「これから外に散歩に行こうかぁ?」と尋ねると決まって「うん、いぃねぇぇ!!」と笑いながら頷く。
彼は自宅で毎朝散歩に行っていた。
1人で外に出て家に戻ってくる事は出来ない彼だが、そんな彼の心強い相棒が、長年飼っていた柴犬である。
おそらく毎朝、犬の散歩に行く事が日課だったようで「散歩に連れて行かなくては!」と言う気持ちはいつまでも残っていて、デイケアに来る前は心強い相棒と一緒に近所の土手を散歩する毎日。
そんな相棒は毎朝、毎朝、雨の日も、日差しが強い日も、寒い日も、風が強くても、彼を自宅へ連れて帰って来てくれる。
認知症の症状から記憶力はかなり低下してしまっていて、ほんの少し前の事や、人の名前などはわからないし、覚えられなかった。
日常の動作以外では、言われた事を理解して体を動かすと言う事もうまく出来ません。認知症はかなり進行していました。
デイケアでゲームなどを行なっても、ほとんどの事をみなさんと同じように出来ない事が多くあった。
いつしか他の利用者さんからは「あの人はバカだから出来ないんだよ」「なんでこんな簡単な事が出来ないのかねー」と言われる。
そんな声が女性、男性問わず・・・。
そんな時、ある職員はなんとか彼が人とは違う事で出来る事はないか?あわよくば見返してやれないものだろうか?と考えていた。
彼は以前、仕事で椅子の組み立てもやっていた事があるようで、今思えば、その組み立てていた椅子は木製なのか鉄製なのか分からないのに、その時は「椅子と言えば木だろぉ!」と思ったようである。
随分と浅はかな考えだ。
こうして彼の地位向上と木との物語が始まっていく。
続く