認知症
認知症とは、認知機能が障害を起こすことで判断力の低下をはじめ日常生活全般に支障を生じる疾患です。最も多いものは、アルツハイマー型認知症であり全体の6割以上を占めます。その他、レビー小体型認知症、血管性認知症などがあります。認知症のタイプにより症状が異なり、治療も異なってきます。また、認知症状(物忘れ)が生じていても認知症でなく、他の疾患が原因となっている場合もあります。専門的な知識を持つ医師による適切な検査・診断が重要となります。認知症状(物忘れ)や幻覚、感情の欠如、無気力、人格の変化など気になる症状がありましたら、お早めに当院までご相談ください。
65歳以上の5人に1人が認知症の時代に突入
日本では、少子高齢化が進んでおり、それに伴い認知症を患う方の割合・人数が増えているとされています。その数は、2025年に約700万人に達するとされており、これは高齢者の5人に1人になるとされています。この先、2050年に高齢者の割合が日本全体の40%になるとされる中、認知症はますます身近な疾患になり、認知症とともに生きる、認知症を患う人とともに生きる時代が訪れると考えられます。当院では、認知症を患った方やそのご家族が生き生きと地域で生活できる環境を作ることを目標に治療に取り組んでいます。また、そのために認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階から早期治療を開始していくことを推奨しています。
認知症の原因
認知症の原因は、認知症のタイプによって異なるとされています。脳内の血管が詰まることで生じる脳梗塞、脳出血など脳血管障害が原因となるほか、最も多い認知症であるアルツハイマー型認知症の場合はアミロイドβ蛋白質と呼ばれる物質が脳内に異常に蓄積することも原因と考えられています。また、間接的ではありますが、脳血管障害を引き起こす原因となる高血圧、糖尿病などの生活習慣病、心疾患、喫煙なども血管性認知症を引き起こす原因となります。
認知症の原因になる病気
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 血管性認知症
- 甲状腺機能低下症
- 慢性硬膜下血腫
- 正常圧水頭症
- 脳腫瘍
など
認知症の種類
アルツハイマー型 認知症 |
血管性認知症 | レビー小体型認知症 | 前頭側頭型認知症 | |
---|---|---|---|---|
表情、外観 | 愛想が良い、 検査に協力的 |
動作緩慢、麻痺がある | パーキンソン様、 仮面様顔貌 |
表面的、無関心、 多幸感、不機嫌 |
態度 | 取り繕い | 構音障害、感情失禁、 易怒的 |
小声 | 滞続言語、 落ち着きない動作、 無関心、立ち去り行動 |
発症経過 | 緩徐に発症して進行 | 階段状に進行 | 徐々に発症 注意の変動 |
徐々に発症 |
認知症の行動、 心理症状(BPSD) |
物盗られ妄想 | 易怒性 | 幻視、 レム睡眠行動障害 |
反復動作、常同行動、徘徊 |
(野村明彦:精神医学的診察.認知症ハンドブック.医学書院、東京、P138 2014を参考に作成)
認知症には、最も多いアルツハイマー型認知症をはじめ、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症など様々な種類があります。下記、それぞれの特徴を記載します。
アルツハイマー型認知症
認知症疾患の40~70%を占めるのが、このアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症では、大脳の側頭葉にある「海馬」が萎縮していきます。症状としては、物忘れが確認され、脳の機能が徐々に弱くなり、次第に寝たきりになることが見られます。発症から死亡までの経過は平均で約10年とされています。
レビー小体型認知症
大脳皮質に広範なレビー小体を認める認知症をレビー小体型認知症といいます。認知症疾患の20%前後を占めています。症状としては、表情がなくなるほか、生々しい幻視、手足のこわばり、小刻みな歩行、手の震え、便秘、失禁、立ちくらみなどが認められます。このように、症状としては、パーキンソン病と似た症状や自律神経症状があります。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、大脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで発症します。萎縮する部位により3つの種類に分類され、症状も萎縮する部位により異なります。認知症疾患の1~3%を占めています。
行動障害前頭側頭型認知症
行動障害型前頭側頭型認知症では、前頭葉と側頭葉が萎縮するため、前頭葉が担う機能である高度な判断力や注意力が低下し、人格障害、理性による制御が効かなくなり窃盗や性的逸脱行為が生じます。初期の段階では、記憶力が比較的保たれることも特徴です。
進行性非流暢性失語
進行性非流暢性失語では、シルビウス裂周囲の前頭葉にある言語中枢が萎縮します。言葉を上手に話せなくなる(ろれつが回らない)といった症状が見られます。前頭葉にある言語中枢は言葉を話す機能を担っており、この部位が障害されると、言葉の意味を理解できても、舌や咽頭が動かず言葉をうまく発することができなくなります。
意味性認知症
意味性認知症では、側頭葉にある言語中枢が萎縮します。言葉を理解できないといった症状が見られます。側頭葉にある言語中枢は言葉を理解する機能を担っており、この部位が障害されると、言葉を発することはできても、意味を理解できないため、会話になりません。
血管性認知症
脳血管障害や脳循環不全が原因で発症します。物忘れや手足の震え、麻痺など、脳のどこで血管に異常が起きたかにより症状は異なります。症状が常にあるわけでない、出たり消えたりするまだら症状が認められることもあります。血管を広げる(拡張させる)薬や血液が固まらないようにする薬(血液凝固剤)を使用することもあります。認知症全体の10~40%を占めると言われます。
軽度認知障害(MCI)
認知症には、認知症により日常生活に支障を来すほどではないが、記憶などの能力が低下した状態である軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)という段階があります。MCIになると、その約4割は5年以内に認知症に移行するとされ、認知症になる前のMCIの段階で早期に気づき、適切な治療を開始することが重要とされています。当院では、認知症の予防に効果的とされている運動や認知トレーニングを含むデイケアプログラムをご用意しております。記憶力の低下が気になる、理解力や判断力が下がってきたなど、気になる症状がありましたら、お早めに当院までご相談ください。
認知症の症状
認知症では、物忘れなど記憶障害のほか、見当識障害や理解力・判断力の低下など様々な症状が見られます。下記のような症状がありましたら、当院までご相談ください。
物忘れ(記憶障害)
- 同じものを何度も買ってしまう
- 同じことを何度も話してしまう
- 最近の出来事なのに忘れてしまう
- 昔から長年にわたり交流のあった人の名前を忘れてしまう
- 物を置いた(片づけた)場所を忘れてしまう
- 常に探し物をしている
- 長年続けてきた作業(家事など)ができなくなる(時間がかかる)
- 日常動作がスムーズにできなくなる(入浴、食事など)
- 約束したこと、日時を忘れてしまう
など
時間・場所が分からなくなる
- 日付が分からなくなる
- 曜日や時間が分からなくなる
- 慣れた道でも迷ってしまう
など
理解力・判断力の低下
- 慣れた操作ができなくなる(ミスが増える)
- 会話が理解できなくなる
- 状況を正しく理解できなくなる
- 怒りっぽくなる
- 実際には起こっていないことを信じてしまう(妄想、幻視など)
など
認知症と加齢による物忘れの違い
「物忘れ」には、認知症によるものと加齢によるものがあります。認知症による物忘れには、下記にあげるような特徴があります。下記のような症状がありましたら、認知症を疑い相談されることをお勧めします。
- 本人に物忘れしている自覚がない
- 話の中でつじつまを合わせようとする
- 日常生活に支障を来す
- 大事な約束を忘れてしまう
- 経験の一部ではなく全部を忘れる(例、朝ごはんの内容を忘れるのではなく食べたこと自体を忘れる)
など
認知症の治療
認知症には、根本的な治療が困難な認知症と治療可能な認知症があります。
根本的な治療が困難な認知症としては、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの変性性認知症が挙げられます。
一方、治療可能な認知症としては、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、ビタミンB1欠乏症・ビタミンB12欠乏症・葉酸欠乏症などの欠乏性疾患・代謝性疾患、自己免疫性疾患、呼吸器・肝臓・腎臓疾患、神経感染症など内科的疾患によって起きる認知症があります。
当院では、こうした正確な鑑別を要する認知症に関して、認知症疾患医療センターの医師が適切に鑑別し、治療していきます。
治療可能な認知症では、できるだけ症状を軽くして、進行の速度を遅らせることが現在の治療目標となります。治療法には、薬物療法と非薬物療法があり、患者様に適切な治療法を提案していきます。
アルツハイマー型認知症の中核症状への治療
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
脳内で認知機能を担う神経伝達物質であるアセチルコリンの濃度を高める薬です。
ドネペジル
軽症、中等症、重症の患者様に適応があり、1日1回服用していただきます。
学習や記憶に関わるアセチルコリンの量を減らさないように、認知機能を改善できると期待されています。
ガランタミン
軽症と中等症に適応があり、1日2回服用していただきます。
脳血管障害を合併したアルツハイマー型認知症にて、アセチルコリンの神経伝達を助け、減少したアセチルコリンの濃度を改善、認知機能を改善できると期待されています。
リバスチグミン
パッチ剤と呼ばれる貼るタイプの薬で、薬を内服することが難しい患者様にも使用できます。
NMDA受容体拮抗薬
細胞内へ過剰なカルシウムが入ることを阻止し、NMDA受容体に作用します。脳の神経細胞間の情報伝達を改善させることが期待されています。
認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療
認知症とともに行動や心理症状が見られる場合、心理療法とともに薬物療法を行っていきます。まずは専門スタッフが患者様の喪失感や不安といった状況を理解し、その後、リハビリや環境を調整することで行動・心理症状の改善を試みます。心理療法にて改善が期待できない場合、抗うつ薬や抗精神病薬といった薬物療法を行うことがあります。患者様の状態に応じて、適切な選択をしていきます。
認知症の入院治療について
当院では、抑うつやせん妄が見られる認知症患者様に入院治療を行っております。認知症の入院というと、長期化や閉鎖的で社会と離れた空間をイメージされる方もいらっしゃるかと思いますが、当院では認知症の行動・心理症状(BPSD)を早期に改善させ、短期間で社会生活を送っていただける状態にするために入院治療を行っております。また、退院後も社会生活をスムーズに送っていただけるために、重度認知症デイケアや訪問看護、在宅介護支援センター、などを関連施設として設けており、連携体制を整えております。
また、ご自宅での介護が難しい場合などの施設入所に対しても、適宜相談やご家族様のお手伝いをさせていただきます。認知症の行動・心理症状(BPSD)にお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
重度認知症デイケアについて
当院では、認知症の患者様に対して重度認知症デイケアをご用意しております。「重度」という名前がついていますが、認知症の進行具合や介護度に関係なく、生活機能や心身機能の低下、認知症に伴う問題行動などによりご家族の介護負担が増している患者様を対象としています。重度認知症デイケアでは、在宅での生活、あるいは施設での療養生活のために必要な運動・認知機能トレーニングを行っております。また、重度認知症デイケアのご利用により、患者様とご家族の関係性が改善することも期待されています。詳しくは重度認知症デイケアのページをご覧ください。