神経発達障害群について
神経発達障害群とは、自閉スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)を総称した疾患名です。脳機能の発達に障害があり、他人との関係づくり、コミュニケーションなどに苦労を生じることもあります。しかし、周囲の方の気づきや適切な支援により、生きづらさを能力として発揮できることもあります。適切な支援が必要になる場合がありますので、まずはお気軽にご相談ください。
神経発達障害群の原因
神経発達障害群の原因に関しては、はっきりと解明されていませんが、何らかの影響で先天的に脳の一部の機能に障害が起きることが原因と考えられています。一部の特性においては、胎児期の風疹感染など感染症や遺伝子の異常が影響するとされていますが、症状が顕在化するかは環境要因にも影響を受けるとされています。育て方や愛情不足などが原因となることはありませんので、特徴を理解した上で生きやすい環境を作ってあげることが大切です。
神経発達障害群の種類
発達障害の中には、自閉スペクトラム障害(ASD)や学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、知的障害などがあります。それぞれの特徴がありますので、お子さんに下記のような特徴があり、日常生活に支障を来していましたら当院までご相談ください。
自閉スペクトラム障害(ASD)
自閉スペクトラム障害は、以前自閉症やアスペルガー症候群、広汎性発達障害と呼ばれていたものになります。スペクトラムというのは、英語で「連続している」という意味です。自閉症では言葉の発達の遅れや相互的なコミュニケーションの困難さがある一方、アスペルガー症候群では言葉の発達に遅れがない、比較的コミュニケーションが取りやすいといった特徴があり、両者には共通する部分もあるが、線引きが難しいといったところから、病気を一連の続くものとして考える“スペクトラム“が使用されるようになりました。
対人関係が苦手であり、こだわりが強いといった特徴が見られます。早い場合には、1歳半の乳幼児健診にて指摘を受けますが、幼少期に診断を受けず、成長し進学や就職などで人間関係を築いていく中で対人関係が上手く築けない、あるいは独特なこだわりがあり周囲との協調が難しいなど、困難に直面し、診断を受けることもあります。
困難に直面した時、適切な環境や支援がない場合には、二次的に精神疾患を生じることもあり、ご自身と周囲の方が正しく疾患の特徴を理解することが求められます。
自閉症スペクトラム障害の原因
自閉症スペクトラム障害の原因に関しては、未だ明らかになっていません。先天的な脳機能の異常を指摘する説もありますが、明確なことは分かっていません。育て方やしつけ、本人の性格が原因ということが言われがちですが、決してそのようなことはございません。
自閉症スペクトラム障害の症状・特徴
自閉症スペクトラム障害では、対人関係などコミュニケーション(社会性)の障害とともに、こだわりの強さなど行動に障害が見られます。障害としていますが、うまく捉えることで特徴として能力を発揮できることがあります。ご自身・周囲の方が下記のような特徴に該当していましたら、パフォーマンスを最大限発揮するためのヒントを当院までご相談いただければと思います。
社会性の障害
- 話がうまくかみ合わない
- 抽象的な話がわからない
- 適切な距離感で話すことが難しい
- 相手の感情を読み取ることが難しい
- 表情が乏しい
- 言葉の捉え方が独特
- 相手の気持ちをとらえて話す、行動することが難しい
- 暗黙のルールなどが分からない
- 冗談が通じない
- 集団行動が苦手
- 一人行動を好む(ごっこ遊びを好まない)
など
行動の障害
- 物事の手順に強いこだわりがある
- 一度没頭すると時間を忘れて取り組む
- 光、音、におい、接触など五感が極端に敏感あるいは鈍感
など
自閉症スペクトラム障害の検査・診断
自閉症スペクトラム障害の検査・診断は、アメリカ精神医学会の作成したDSM-5や世界保健機関の作成したICD-10をもとに行っていきます。生育歴や既往歴も診断をくだす重要な手掛かりとなりますので、問診も丁寧に行っていきます。また、必要に応じて心理検査を行い、診断をくだすとともに今後の支援に生かすヒントをつかんでいきます。なお、自閉症スペクトラム障害の二次障害としてではない精神疾患を除外することが必須になります。
自閉症スペクトラム障害の治療
当院では、自閉症スペクトラム障害を病気としてとらえるのではなく、特徴としてとらえています。そのため、どのようにすれば特徴を最大限生かせるのか検討していきます。なお、自閉症スペクトラム障害の二次障害として精神疾患を発症している場合は、薬物治療など適切な治療を行っていきます。
学習障害(LD)
学習障害(LD:Learning Disability)とは、「読み」「書き」「話す」「計算・推論する」のいずれか、あるいは複数の能力に著しい困難を生じる障害です。全般的な知的障害はないことが特徴です。学習障害の中でも、「読み」に困難を生じるタイプを読字障害(ディスレクシア)、「書き」に困難を生じるタイプを書字障害(ディスグラフィア)、「計算・推論する」に困難を生じるタイプを算数障害(ディスカリキュリア)といいます。
人により程度が異なり意識しなければ気づかれにくいことも多く、診断が送れ、学業・就労に困難を来すことがあります。
学習障害の原因
学習障害の原因に関しても、自閉症スペクトラム障害と同様に、未だ明らかになっていません。先天的な脳機能の異常を指摘する説もありますが、明確なことは分かっていません。育て方やしつけ、本人の性格が原因ということが言われがちですが、決してそのようなことはございません。
学習障害の症状・特徴
学習障害では、「読み」「書き」「話す」「計算・推論する」のいずれの能力が障害されるかにより症状・特徴が異なります。それぞれの症状・特徴がありましたら、適切な支援を受けることで学業・就労に対する困難が軽減されることが期待されます。下記のような症状・特徴がありましたら、障害とうまく向き合う・付き合うためにもお気軽に当院までご相談ください。
※当院では、児童思春期外来を設けておらず、原則的に高校生以上の診察をさせていただいております。
読字障害
- 文字を読むのが極端に遅い
- 文字の読み間違いが多い
- 文字や文章の意味の理解が難しい
- 文章の内容(概要、あらすじ)をつかめない(要約できない)
- 音読が遅い、たどたどしい
など
書字障害
- 文字を書くことに困難を伴う
- バランスの取れた文字を書くことが難しい
- 考えていることを書く、文字にして表現することが難しい
- 板書などで書き写すのが極端に遅い
- 文字を書く際に助詞などをうまく使いこなせない
など
算数障害
- 文章題が極端に苦手
- 数の概念が分からない
- 数字の規則性などを理解できない
- 物事を推論することに困難を生じる
など
学習障害の検査・診断
学習障害の検査・診断としては、知能指数等を算出することで知的障害でないことを確認することがあります。また、音読検査により言葉の流暢性や正確性を確認することもあります。様々な心理検査等を使用して、総合的に診断を行っていきます。
学習障害の治療
学習障害は、本格的な学習に入る小学生になっても特定の分野が極端にできない場合に専門的な検査・診断を行い、状況に応じた適切な支援を行うことが求められます。当院では、小学生の患者様の診察は行っておりませんが、障害に気づかずに、または気づいていたけど受診はしなかったなどの高校生以上の患者様を中心に診察を行っております。適切な支援やアドバイスを行うことで、不適応などによる二次障害(精神疾患)の発症を防ぐことにもつながります。学習障害にお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。
注意欠如・多動性障害(ADHD)
注意欠如・多動性障害(ADHD :Attention-Deficit Hyperactivity Disorde)は、不注意さや集中力に対する症状(特徴)、衝動性が見られる発達障害のひとつです。ミスが目立ち叱責を受けること、物事をよく考えずに行ってしまうために事態が悪くなることがあり、学業や就労といった日常生活において様々な支障を来します。一方で、好きなこと(分野)に関しては、集中でき、ミスが少ないといったこともあり、周囲の方が適切な環境を用意することで驚くべき才能を発揮できることもあります。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の原因
注意欠如・多動性障害の詳しい原因は分かっていませんが、生まれつき脳に何らかの機能異常がある、あるいは脳内の神経伝達物質の不足が影響しているのではないかと考えられています。育て方やしつけが原因ではありませんので、それぞれに応じた適切な環境を整えることが重要になります。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)の症状・特徴
注意欠如・多動性障害の症状・特徴として、下記のような点が挙げられます。
- 重要なことでも期限を守れない
- 物をなくしやすい
- 忘れ物が多い
- 物事の適切な順序を立てられない
- 計画通りに物事を進められない
- じっと座っていられない
- 手足を動かさずにいられない(そわそわする)
- 思ったことをすぐ口に出してしまう
- 衝動的に買い物をしてしまう
- 欲求のコントロールができない
- すぐにイライラする
など
注意欠如・多動性障害(ADHD)の検査・診断
注意欠如・多動性障害の検査・診断は、DSM-5をもとに問診、各種検査を行っていきます。患者様ご自身が今まで困ってきたこと、周囲から見て気になることがございましたら、お気軽にご相談ください。
注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療
注意欠如・多動性障害の治療では、心理療法(カウンセリング)や薬物療法を行っていきます。心理療法の中では、ミスが起きやすい場面などを一緒に確認することで対応策を考えていきます。また、対応策を考えた上で、どのようにすれば適切な行動に変えることができるのか考えていきます。一方、薬物療法では、注意欠如・多動性障害のためにうまく環境に適合できず生じた精神症状を抑制する効果が期待されます。患者様に応じた薬が選択されますので、詳しくは主治医までご相談ください。
知的能力障害
知的能力障害とは、知的能力(IQ)70未満であり、日常生活や社会生活において適応する能力が著しく乏しい状態です。発達期(18歳以下)で生じていることが基準となります。知知的能力(IQ)に応じて、重症度が分けられます。それぞれに応じた適切な支援を行うことが重要です。当院までお気軽にご相談ください。
知的指数IQとは
知的指数であるIQは、知的能力障害の重症度を診断する指標として使用されます。知能検査によって測定され、IQが低いほど重症度は大きくなります。知能検査としては、ウェクスラー系の検査が代表的で、年齢に応じて「WISC」と「WAIS」を使い分けていきます。ただし、知的障害はIQだけで診断されるわけでなく、IQが70未満の場合でも適応能力が高い場合知的障害出ないと診断されることがあります。
知的能力障害とともに見られる主な疾患
- てんかん
- 脳性まひ
- 注意欠如・多動性障害(ADHD)
- 自閉スペクトラム障害(ASD)
- 双極性障害
など
知的能力障害の原因
知的能力障害の原因としては、遺伝子や染色体の異常、母胎の感染症、交通事故などによる頭部外傷、感染症などが考えられます。様々な要因が考えられ、知的障害の原因を特定することが困難な場合もあります。
知的能力障害の治療
知的能力障害そのものを治療(完治)する方法は、現在のところありません。そのため、知的障害に関しては、知的障害に伴う発症した精神症状・疾患の治療が中心となります。