統合失調症について
統合失調症は、統合失調症や統合失調症に関連する障害を一連の疾患として、「統合失調症スペクトラム」と呼びます。考えや気持ちにまとまりがない、妄想、幻覚が見られる疾患であり、以前は「精神分裂病」と呼ばれていた疾患になります。100人に1人程度の割合でかかる疾患であり、決して珍しい疾患ではありません。統合失調症患者は、日本の精神科長期入院の約7割を占めるとされ、短期的な治療で高い改善効果を上げることが喫緊の課題となっています。薬物治療や心理療法などを通して、適切な治療を行うことで疾患と向き合いながら仕事や学校、デイケアなどを含めた日常生活を送っていただくことができます。お気軽にご相談ください。
統合失調症スペクトラムとは
統合失調症や統合失調症に関連する一連の障害をまとめて、統合失調症スペクトラムと呼びます。統合失調症スペクトラムには、進行しやすいものから進行しにくいものまで、多岐にわたります。詳細は上記画像をご確認ください。
治療抵抗性統合失調症について
治療抵抗性統合失調症とは、複数の抗精神病薬を十分な量、一定期間適切に使用したものの症状の改善がみられない統合失調症を指します。また、副作用のために抗精神病薬など統合失調症で用いられる薬物療法が継続できない場合を指します。
現在、治療抵抗性統合失調症の患者様に対して、唯一の治療として適応されているのがクロザピンになります。当院でも、クロザピンに関して専門的な知識と経験を積んだ医師が対応に当たっています。患者様からのご相談、医療機関様からのご紹介、ともに積極的に受け入れております。詳しくはクロザピンのページにてご確認ください。
統合失調症の原因
統合失調症の原因は、未だはっきり解明されていません。しかし、脳内で情報を伝える過程に何らかの障害が起き、バランスが崩れることで発症するのではないかという説や遺伝的なことやストレスも影響を与えるという説があります。このように1つの原因に起因するのではなく、複数の要因が重なることで発症すると考えられています。これを「ストレス・脆弱性モデル」といい、もともと疾患にかかりやすいところに、ストレスが重なり引き起こると考えられています。
統合失調症の症状
統合失調症には、妄想や幻覚をはじめ、様々な症状が認められます。これらの症状は大きく陽性症状と陰性症状、認知機能障害に分けられます。
陽性症状
- 妄想
- 幻覚
- 考えに一貫性がなくなる
- 会話の内容が分からなくなる
など
陰性症状
- 自分の世界に引きこもり、他社とのコミュニケーションを避けてしまう
- 意欲がなくなる
- 行動を継続することが難しくなる
- 感情がなくなる(感情の平板化)
- 他社の感情に共感することが少なくなる
- 抽象的な言い回しを言うこと・理解することが難しくなる
など
認知機能障害
- 記憶力が低下する
- 判断力が低下する
- 物事の優先順位を立てることが難しくなる
- 計画をすることが難しくなる
- 注意力が低下する
- 集中力が低下する
など
統合失調症の発症と経過
統合失調症は20代前後で発症する方が多い疾患です。一度発症すると治療は長期に渡りますが、早期に適切な治療を始めることで良い状態を長期間続ける可能性が高くなります。統合失調症の経過に関しては、大きく4つに分けられ、それぞれ前駆期、急性期、消耗期、回復期と呼びます。
前駆期
統合失調症の前兆となる症状があらわれる時期です。不安感が強くなる、焦燥感がある、音に敏感になる、不眠になる、抑うつ状態になるなどの症状が見られます。
急性期
幻覚や妄想が認められる時期です。興奮が生じ、時に暴力的になることがあります。対人関係や社会生活に支障を来すこともあります。また、不眠が強くなるのもこの急性期になります。
消耗期
幻覚や妄想といった陽性症状は落ち着きますが、感情が乏しくなり(感情の平板化)、自宅に引きこもりがちになるなど、陰性症状が強くなります。
回復期
心身ともに少しずつ回復に向かっていく時期です。陰性症状は続いていきますが、周囲への関心を取り戻していく時期になります。再発予防のためにも医師の指示に従い薬物療法を続けていくことが大切です。リハビリテーションなどを開始していくのも、この回復期になります。
統合失調症の検査・診断
統合失調症の検査や診断に際し、患者様やご家族からの問診が重要になってきます。問診では、幻覚や妄想などの症状のほか、生育歴や既往歴、家族歴などに関してもお伺いすることがあります。また、診断基準としては、世界保健機関(WHO)の作成した「ICD-10」やアメリカ精神医学会の作成した「DSM-5」を使用します。なお、必要に応じて統合失調症と同じような症状を来す疾患と鑑別するため、CTや血液検査を行うこともあります。
統合失調症の治療
統合失調症の治療では、薬物療法と心理療法、また精神科リハビリテーションを組み合わせて行っていきます。統合失調症は、再発を繰り返しやすい疾患であり、薬物療法を中心に症状をコントロールしていくことが重要です。発症前の状態に戻すことより、疾患と向き合い疾患とともに生きていく、より良い状態を目指すことが目標となります。
薬物療法
統合失調症の薬物療法では、神経伝達物質の一種であるドーパミンが過剰になることで陽性症状が引き起こるとされています。薬物療法の中心は、抗精神病薬であり、抗精神病薬では過剰になったドーパミンの働きを調整する作用があります。また、抗精神病薬1つでコントロールできることが理想ですが、場合によっては2種類以上の抗精神病薬を併用する、あるいは増量することもあります。抗精神病薬は、陽性症状の幻覚や妄想といった症状を抑えるだけでなく、再発を予防する効果も期待されています。そのため、医師の指示に従って継続的に服用することが重要です。
抗精神病薬
統合失調症に対する薬物療法として、主に使用される薬は下記の通りになります。ただし、統合失調症では抗精神病薬と呼ばれる薬だけでなく、補助の薬として睡眠薬や抗不安薬、気分安定薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗コリン薬など、複数の薬を組み合わせて治療を行うこともあります。お薬に関して、ご不明点や疑問、ご不安なことなどございましたら、お気軽にご相談ください。
SDA(セロトニンドパミン遮断薬)
快楽を感じたときに脳内に分泌される神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンの働きをブロックします。陽性症状だけでなく、陰性症状も改善することが期待されます。代表的なものとして、リスパダール(商品名:リスペリドン)やインヴェガ(商品名:パリペリドン)、ルーラン(商品名:ペロスピロン)、ロナセン(商品名:ブロナンセリン)、ラツーダ(商品名:ルラシドン)があります。
MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)
セロトニンやドーパミンだけでなく、多くの神経伝達物質をブロックすることが知られています。陽性症状だけでなく、陰性症状の改善も期待されています。代表的な薬として、セロクエル(商品名:クエチアピン)、シクレスト(商品名:アセナピン)、ジプレキサ(商品名:オランザピン)があります。
DSS(ドーパミン部分作動薬)
ドーパミンが過剰な時には抑制し、不足している時には放出するといった働きをします。陽性症状だけでなく、陰性症状に対しても改善の効果が期待されます。代表的な薬は、エビリファイ(商品名:アリプラゾール)やブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)があります。
定型抗精神病薬
ドーパミンの働きをブロックし、陽性症状を改善させることが期待できます。効果は期待できますが、一方で副作用も出やすいお薬です。代表的な薬としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)やスルピリド(商品名:スルピリド)、クロルプロマジン塩酸塩(商品名:クロルプロマジン塩酸塩)、レボメプロナジン(商品名:レボトミン、ヒルナミン)があります。
クロザピン(唯一の治療抵抗性統合失調症治療薬)
複数の抗精神病薬を十分な量、一定期間適切に使用したものの症状の改善がみられない統合失調症の方、また副作用のために抗精神病薬による薬物療法が継続できない方は治療抵抗性統合失調症と診断されます。治療抵抗性統合失調症の患者様に対して、唯一の治療として適応されているのがクロザピンになります。クロザピンは、ドーパミンの働きをブロックし、陽性症状を改善させます。特に、衝動性や他害リスクを減少させ、自殺の予防効果に大変優れているお薬です。長期入院を余儀なくされていたが、退院して自宅での社会生活を送れるようになった、仕事やデイケアに通えるようになった、多飲水が改善したなどのより良い状態へ改善した患者様も多くいらっしゃいます。同時に副作用にも気を付けて増量していく必要性がありますので、クロザピン治療をご希望でしたら、CPMS登録通院医療機関である当院へ一度ご相談ください。
心理療法
統合失調症に対する心理療法としては、支持的精神療法と呼ばれる患者様の気持ちを受け止め、共感し、気持ちを支えるように接する心理療法が中心となります。また、病気の特徴や服薬の重要性に関して、患者様ご自身で納得して治療に進んでいただくことが重要になります。必要に応じて、休職や休学などの環境調整を行いますが、家族関係に問題がある場合は、ご家族間でバランスを整えるための家族面談も積極的に行っております。
また、当院では、統合失調症の患者様に対して、認知行動療法を行うこともあります。認知行動療法に対して専門的に行っているスタッフが対応しますので、安心してご受診ください。
精神科リハビリテーション
統合失調症の回復期では、精神科リハビリテーションを行うこともあります。回復期では、陽性症状が改善しても、陰性症状や認知機能障害を認めることがあります。「生きづらさ」や「生活のしづらさ」が生じる時期もこの回復期になります。当院では、コミュニケーション力を高める、居場所を見つける、生活リズムを整える、病気とともに生きる方法を学ぶ、復職や復学の準備をするなどを目的に「精神科デイケア」を行っています。精神科デイケアでは、ヨガやアートのほか、ソーシャルスキルトレーニング(SST)なども行っていきます。専門スタッフや同じようなお悩みを持つ患者様と交流することで、余暇を楽しみ、他人とのコミュニケーションをスムーズにする技術を見つけたりしていきます。